progress, not perfection

日本のスピリチュアル系はなぜ、かくもネトウヨ化するのかを考えます。オカルト関連の話題中心。

ドラマ Ghost Wars Season01 感想

 紹介を兼ねた感想

「ゴースト・ウォーズ」というタイトルからイメージされるような、主人公がサイキック能力を駆使して悪霊と戦う冒険譚のような作品ではないです。

直球のオカルトものでありつつも、Syfyオリジナル作品というだけあって、quantum object(量子物体)だの、quantum fissure(量子亀裂)だの、dimension(次元)だの、phase(位相)だの、SFっぽい用語が会話の中で飛び交う感じ。

聖職者と科学者の間で神学や生命倫理をめぐる論争が勃発したり、「あの世の植民地化(to colonize Heaven)」という過激な思想が飛び出したり、霊魂と肉体の二元論というキリスト教的な主題をベースに、理想的な肉の器をバイオテクノロジカルに創造し、その肉の器を憑依先のホスト(宿主)として、すべての魂が一つの存在になるという「救済」のモチーフが出てきたりと、ただのオカルトものには収まりきらない興味深い要素が盛り込まれています。

ドラマとしては終始シリアスな展開で、登場人物もそれなりに次々と死んだり悪霊化したりと目まぐるしく、時々ホラー場面もあります。

大まかな物語としては、ある出来事をきっかけにして忌まわしい超常現象に襲われ始めた小さな港町を舞台にして(外部との交通・連絡を絶たれた孤立無援状態)、登場人物たちが各々生き残りをかけて行動する中で、それぞれの視点を通じて、この町をめぐる大きな謎の全体像が徐々に明らかになってくるという流れ。

一応、体裁上は、サイキック能力を持った青年ロマン(Roman)が物語の主人公ということにはなっているようですが、彼が物語の進行において果たす役割は限定的で、むしろ、彼を含む登場人物全員が主人公とも言える構成になっています。

とはいえ、登場人物が途中で死んだり、あるいは憑依されたりして、悪霊化してしまうこともあるので、ゾンビ系ジャンルの作品に似て、主人公の座が絶対的に保証されている登場人物は誰一人いないとも言えます。

個人的に、SCEIのホラーゲーム『SIREN』を思い出しました。各登場人物ごとに用意された独立した時系列シナリオが互いに交錯しあって物語全体の謎を徐々に照らし出していく感じ。

 

ストーリー結末メモ(ネタバレ含)

最終話(第13話)のラスト5分間で繰り出された超絶どんでん返し。

ストーリー結末のネタバレから入ると、最終的にビリーが自らの命を犠牲にすることで、すべての災いの根源であるアーティファクトをリフト(Death's Gate)のあちら側に送り返すことに成功し、ポートムーアの町は再び平和を取り戻したかに思われた。が、なんとアーティファクトは持ち去られていた。

犯人は、驚くべきことに、ロマン(主人公格のサイキック能力者で、町を救うために欠かせない貢献を果たした勇者)と、マギー(ロマンに対して友好的な亡霊。ダグの娘。)。二人が共謀して、アーティファクト返送計画を秘密裏に乗っ取っていたのだった。

マギーの霊魂は、まんまとダフネ(LambdaのCEO)の肉体に憑依し、ロマンと二人でポートムーアの町から船で脱出するところで物語は終わる。

 

…と、驚愕のラストだったわけですが、この展開は予想しようと思えば予想できたもので、充分な伏線なりロジックなりが事前に張り巡らされていたと思います。

ゴーストたちが実現を目論む「救済」計画(すべての霊魂が、互いの喜びも苦しみも共有できる単一の存在へと進化するために、例のポッドを使って理想的な「肉の器」を産み出し種を撒こうとする計画)に対して、ある種の共感を表明するマギーの台詞もあったし、マギーの「ヤバさ」は物語後半になればなるほど強調されていたように思います。

エピソード13でマギーが言い放った台詞:"This town belongs to us now, Roman"が決定的だったかな。この"us"が意味するのは、言うまでもなく、マギーもまたこの町を襲うゴーストたちの一味だということです。西洋のエクソシズムの文脈において、悪魔は必ず一人称「複数」を用いるというのは定説ですが(レギオン"the Legion"の存在)、マギーにしろ、エピソード11で憑依されたカーラにしろ、ついつい「私たち」と言ってしまう。

ロマンはというと、この小さな田舎町で唯一の身寄りである母を失い(過失による事故だったとはいえ、町によって殺されたのも同然)、自身も町中からよそ者扱いされていじめられた経緯を持つ以上、この町を裏切って捨てるだけの動機は十分にあった。マギーと利害が一致したから乗っただけの話。

二人は共犯とはいえ、ウェイト的には、マギーが正犯、ロマンが従犯くらいだと思えます。マギーの背後には多数のゴーストたちがいるので(「私たち」)、もはやマギー個人の意思で行動しているのではないんでしょうけど。

マギーとしては今後、第二、第三のポートムーアにアーティファクトを持ち込み、ロマンの能力を借りてデスズゲートを再び開き、ゴーストたちの「楽園」の実現を目指すことだと思います。

ラストシーンは、どこかの町で「笛吹き男」となって子供たちを誘い出すプリースト・ダンの姿。すでに第二のポートムーア候補の町がターゲットロックオンされ、ゴーストたちが解き放たれたようです。

 

ストーリー細部メモ

  • 舞台となるのは、アラスカ州ポートムーア(Port Moore)という小さな港町。主要産業は特にないが、Lambdaという企業の研究施設の所在地であるため過疎化を免れている。
  • この町を襲った地震。この地震をきっかけにして町中にパラノーマルな存在=亡霊spiritsが現れるようになる。
  • この地震の直接の原因となったと考えられるのが、Lambdaの研究施設で行われた、この地に伝わるアーティファクトである特別な隕石を加速器(particle accelerator)にかけるspool upテスト。
  • この隕石は一体何なのかという問いは、なぜこの地に研究施設が建造されたのかという問いにも関わる。港町PortMooreは、ley-lineがちょうど交差する地点の近くにあり、エネルギーが集中する位置にある。
  • 数世紀前、この地に隕石が落下し、町の人口の半数が死滅した。死因はインフルエンザによるものだと言われているが、どうやら実際には他の原因によるものらしい。
  • 隕石が衝突した際、エネルギーがリリースされ、二つの世界(two realms)の間を結ぶ裂け目(a rift)が一時的に現出した。もう一つの世界(the other side)からやってきた何かがこちらの世界に残された。それらが町の人々を殺した。
  • この町に古くから伝わる伝承「笛吹き男the whistleing man」はこの出来事を伝えていると考えられる。
  • 企業Lambdaがやろうとしていたのは、この隕石の衝突を、加速器を使って再現すること。裂け目を再び現出させる(re-open the rift)のが実験の目的。